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2024.02.07 ブログ

運動が苦手ですが、日本舞踊を習えますか?「はい、習えます!」

「運動が苦手ですが、日本舞踊を習えますか?」という質問にお答えします。

まずはシンプルに「習えますし、上手になれます」ということをお伝えします。

そのうえで、もう少し詳しく解説しましょう。
自分は「運動が苦手だ」とお思いの方の大部分は、学校の体育の授業での経験(走るのが遅かった、水泳が、球技が苦手だった、というような)が基準になっているように思います。

学校の体育が苦手=日本舞踊もうまくならない、ではありません

学校体育を思い出してみると、50m走や長距離走、走り幅跳びのような陸上競技、鉄棒や跳び箱、水泳、サッカーやバスケットボールといった球技、運動会で行う各種競技…

瞬発力や持久力を鍛えて、汗をかいて…というイメージですね。「体育」とは文字通り、体を育成するのが目的ですから、様々なスポーツを手段として子供たちの身体能力を高める授業が行われます。

能力が上がったかを確かめるためには、タイムを計ったり、点数がついたり、能力をスコア化して「計測」できる必要があります。体育で「競技スポーツ」が多いのはそのためです。そのため、「運動」といえば、より速くより高くより強く、という方向性を意識しがちです。

「だとすると、日本舞踊も体を使うのだから、やはり、体育が苦手だった私は、日本舞踊もうまくいかないのでは?」

と思われたかもしれません。しかし、そうではありません。学校体育や競技スポーツで必要とされる身体能力と、日本舞踊の表現に必要な身体能力は大きく異なります。学校体育や、競技スポーツの同一線上に日本舞踊はありません。

具体的に日本舞踊のキーワードを例に挙げて説明しましょう。

「体育では計測しなかったこと」が日本舞踊では重要

日本舞踊の重要な基本動作の一つに「すり足」があります。
腰を落として行う「すり足」では重心を低くし、下半身を鍛えるとともに「丹田」の意識を養います。丹田とは、臍下丹田(せいかたんでん)とも言って、へそのやや下にあると考えられる体の中心の一つです。日本舞踊や武道でよく用いられる概念で、骨や臓器、神経のように物体としてあるわけではなく、意識や気の置きどころ、といったイメージです。

「息」も重要です。
普段、何気なく行っている呼吸ですが、呼吸は体の使い方、表現に、非常に大きな影響を与えます。私の稽古場では、日本舞踊の所作に伴う「吸う・止める・吐く」の反復練習を行う場合があります。そのくらい、呼吸は重要なのです。

日本舞踊を習い始めると、まずはかんたんな舞踊から、「すり足」や「息」という基本を守りつつ、稽古を積み重ねていきます。日本舞踊に必要な身体能力は、もちろんすぐに身につくわけではありませんが、日頃の稽古、鍛錬を重ねると、知らず知らずの内に身についていきます。

また、経験上、ただ稽古をするだけでなく、文化や歴史を学ぶことで空気をまとうように、動きもおのずから変わる、ということもあります。

体育とは違う「運動」

ここまでお読みになって、日本舞踊と学校体育や競技スポーツでは、同じ「運動」でも、まったく違うものだ、と感じられたのではないでしょうか。

体を思ったように動かす、という意味での「運動」能力は共通していますが、より速くより高くより強く、という「運動」の方向性ではありません。「筋トレ」などとも真逆で、筋力がありすぎると、力で踊ってしまい、表現力が失われることさえあります。

まとめ

「運動が苦手ですが、日本舞踊を習えますか?」という質問に対し、「習えますし、上手になれます」とお答えした理由について解説しました。
学校体育や競技スポーツが苦手でも、日本舞踊は上手になれます。ただ、これは「日本舞踊が簡単だ」という意味ではありません。稽古の積み重ねは重要ですし、日本舞踊の大先輩方がみなさんおっしゃることですが、順位を競い1位になることがゴールとなりがちな競技スポーツの世界と違い、芸の道に完成やゴールはなく、常に修行、なのです。